はじめに|中小企業診断士を取得したその先に何があるのか?
中小企業診断士に合格したとき、私はひとつのゴールに到達したような気がしました。しかし、それは“始まり”にすぎませんでした。
中小企業診断士の資格の活用方法すらよく知らないままでしたが、実務では収支に関わる場面もありましたし、「会計に強くなればもっと活かせるのでは?」と感じていたのです。
そんなとき、私の頭に浮かんだのが「簿記」でした——。
本記事では、中小企業診断士の次に日商簿記2級を選んだ理由と、その背景にある実務とのつながり、学びを深めたことで得られた変化について、リアルな体験とともにご紹介いたします。
簿記の始まり|中小企業診断士取得のその後
中小企業診断士試験に合格したあと、ある日一通の封筒が届いた。中を開けると、資格学校からの「講師業務の案内」だった。
「講師?転職しろってこと?」「いやいや、そんなの無理でしょ……」
そんなふうに思った。当時の自分にとっては、中小企業診断士試験に合格することが最終目的で、その先の活かし方なんて何も考えていなかった。
でも今振り返れば、それは副業としての講師業務、つまり“中小企業診断士を活かす仕事”の提案だったのだ。
当時はまだ、副業やリスキリングという言葉が一般的ではなかった。もしあのとき、一歩踏み出せていたら、もっと早く新しいキャリアの可能性に気づけていたのかもしれない。
そんな中、実務では取引先の決算書や経営状況に触れる場面もあった。
「もっと会計に強ければ、中小企業診断士の知識も活かせるのでは?」
そう思い始めたのは自然な流れだった。中小企業診断士試験では財務・会計の科目で経営分析も学んだが、正直“決算書を深く読む力”までは身についていなかった。
「簿記を学べば、決算書の構造や数字の意味がもっと分かるかもしれない」
この気づきが、簿記2級に挑戦しようと思ったきっかけだった。
簿記|30代半ば、会計の“言語”を学ぶ
簿記の勉強を始めたのは、中小企業診断士に合格した翌年のことだった。年齢は30代半ばに差しかかっていた。転勤した翌年でもあり、新任地での仕事にもある程度慣れ、業務の中で数字を意識する場面も増えてきた頃だった。
テキストを開くと、そこに並ぶのは「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」といった勘定科目。日々の取引をどう仕訳し、どう決算書につなげていくのか。そのプロセスを初めて体系的に学んでいくことになった。
最初は、抽象的な概念の多さに戸惑いもあった。けれど、仕訳のルールを理解し、帳簿のつながりが見えてくるにつれ、簿記が「会計という言語」であることを実感するようになった。
これまで私は、決算書を「完成された結果」として捉えていた。売上、利益、費用……数字の並びを見て、その良し悪しを判断していた。
でも、簿記を学んでからは違った。
「この売上は、どんな取引の積み重ねで生まれたものだろう?」 「この費用は、どんな背景があって計上されたのだろう?」
そうやって、数字の“背景”を自然と考えるようになった。
仕訳から試算表、そして決算書へとつながる流れを理解することで、数字が生まれるストーリーが見えるようになる。すると、決算書の1ページ1ページが、まるで会社のドキュメンタリーのように感じられてきた。
「簿記って、数字の裏側を読む力」そして「決算書は会社のストーリーを語るもの」
そう気づいたとき、「この知識は、確実に仕事に活きる」と確信した。この感覚が、後の実務にもつながっていくことになる。
簿記と実務とのつながり|決算書の違和感
簿記の知識は、机上の理論で終わらなかった。むしろ、実務の中でこそ、その真価が見えてきた。
ある日、取引先の決算書を確認する機会があった。取引内容は販売業が中心だと聞いていたのに、なぜか「仕掛品」や「半製品」といった製造業で使われる勘定科目が記載されていた。
「販売業なのに、どうして仕掛品が…?」
以前の自分なら、きっとスルーしていただろう。しかし、簿記の知識があったからこそ、違和感に気づけた。そして確認してみると、その会社は別の事業を行っていたことが分かった。
「なるほど、だからこの勘定科目が出てきたのか」
そう納得した瞬間、会計情報がただの「数字」ではなく、「企業活動を映す鏡」だということを実感した。
もちろん、外部の人間であるし、取引に問題が生じていない以上は、相手の経営方針に口を出す必要はない。けれど、その数字の裏にあるビジネスモデルや事業構造を読み解くことで、会話の内容や説得力が変わってくる。
簿記は、相手の話を“聞く”ためのツールでもある。目の前にある数字から、その企業が何を目指しているのか、何に課題を感じているのか、どんなステージにいるのかを読み取る。それによって、ただ「売るための提案」ではなく、「事業に寄り添う提案」ができるようになった。
会計を学んだことで、相手の視点で物事を見る力が養われていった。
そしてこの感覚こそが、中小企業診断士としても、ビジネスパーソンとしても必要な「数字で語る力」なのだと、気づくことになる。
簿記が教えてくれたこと|ただの知識か、それとも武器か
簿記の知識は、確かに実務で活きた。
数字に強くなったことで、決算書の読み取りや提案内容の説得力も変わった。提案先の反応も変わった。自分の話に耳を傾けてもらえる場面が増えたと感じた。
でも、あるときふと、こんな問いが頭をよぎった。
「この知識って、士業じゃないよな?」 「資格があることでできる“独占業務”があるわけじゃないよな?」
中小企業診断士や社会保険労務士のような「士業」とは違って、簿記はあくまで“知識”だ。資格を持っているからといって、何か特別な権限があるわけではない。
もちろん、それは価値のないものという意味ではない。むしろ、自分の中でようやく「資格の色」が見え始めた瞬間だった。
「士業じゃなくても、十分に“武器”になる」そのことに気づいた。
中小企業診断士が経営全体を俯瞰するための「広い地図」だとすれば、簿記2級はその地図の中の「会計エリア」を深く掘り下げるための“言語”だった。「数字の裏にある経営のリアル」を読み解くための“言語”。
数字という共通言語を理解できるようになったことで、専門家や経営者との対話の質が一段階深まった。表面的なヒアリングでは見えてこなかった問題の兆しにも、気づけるようになった。
結局、資格に“色”があるのだと思う。
診断士のように多面的に経営を見る資格もあれば、簿記のように一部分を深く掘り下げる資格もある。それぞれの特性を理解し、必要な場面で使いこなすことができれば、それは間違いなく「武器」になる。
資格ごとに役割が違う。だからこそ、ただ資格を取ることではなく、「どう使うか」「どうつなげるか」が重要だと、簿記を学ぶことで強く実感した。
まとめ|中小企業診断士の先に見えた「簿記と言う言語で語る力」
中小企業診断士の次に日商簿記2級を学ぶことにしたのは、偶然ではありませんでした。
中小企業診断士の知識を持って仕事に関わる中で、「数字を読み解く力」「会計という言語」が必要だと感じたからこそ、自然な流れとして簿記にたどり着いたのです。
経営を語るうえで、会計の知識は避けては通れません。
その“言語”を学んだことで、私は以前よりも深く仕事と向き合えるようになりました。
日商簿記2級は、士業のように独占業務を持つ資格ではありません。
けれど、数字という共通言語を手に入れたことで、相手の見ている景色を共有し、本質的な会話ができるようになったと感じています。
ときには、決算書に隠れた課題に気づくこともあります。
そうした気づきが、実務や対話のなかで新たな価値や解決策を生み出していく——。
簿記は、私にとって「ただの知識」ではなく、「キャリアを支える力」になりました。
この経験は、キャリアとして振り返っても、大きな糧になっていると感じています。
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